
2024年から始まった「医師の働き方改革」により、多くの医療機関が勤怠管理を見直しています。令和に入ってからシステムを導入した病院も、老朽化や耐用年数などの問題で、システムの刷新が求められる時期でしょう。
最近では勤怠管理システムも進歩し、さまざまな職種や勤務形態に対応できるようになりました。ただし、製品によって仕様は異なるため、実際の導入効果をイメージしたうえで、目的に合ったシステムを選ぶことが重要です。
本記事では、病院向け勤怠管理システムを導入するメリットや導入効果、選び方のポイントをわかりやすく解説します。
■病院向け勤怠管理システムのメリット5つ
働き方改革の影響で、医療機関にはこれまで以上に厳密な労務管理が求められています。さまざまな職種や複雑な勤務体系への対応、労働実態の把握、属人化を防ぐためのシステム導入など、課題を挙げればキリがありません。
これらの課題をまとめて解決するものが、病院向けの勤怠管理システムです。実際にどのような導入メリットがあるのか、一つずつ確認していきましょう。
●1.正確な労働時間を把握できる
医療従事者の中でも医師は、急な患者対応や自己研鑽時間が発生しやすい職種です。忙しさの影響もあり、打刻時間と実際の労働時間が乖離しやすい状況でしたが、近年のシステムでは労働実態に即した勤怠管理が可能になりました。
たとえば、プラットフォーム上で「業務時間変更申請」や「休暇申請」ができるシステムでは、医師の代わりに医療秘書が労働時間を入力できます。システムによっては電子カルテと打刻機器を連携できるため、客観的なデータ(実際の診療時間など)に基づいた勤怠管理も可能です。
●2.職種ごとの勤怠管理が可能
導入するシステムによっては、医師や看護師、薬剤師、技師、事務職などの勤怠管理を一元化できます。医療業界特有の就業スタイルに対応しているため、職種ごとにシステムを使い分ける必要がありません。
勤怠管理をひとつのシステムに統合すると、運用コストや刷新コストを削減できるほか、勤怠管理で発生しがちなミスも減らせます。フォーマットが異なるデータを扱うことがないため、手作業での転記や確認作業をする必要がありません。
●3.複雑な宿日直やオンコールなども管理できる
病院向けの勤怠管理システムは、基本的に宿日直やオンコール(緊急の呼び出し)といった複雑な勤務形態にも対応しています。交替勤務や非常勤、変形労働時間制などに対応したシステムが多いため、打刻データと労働実態が大きく乖離することを防げます。
打刻方法についても、タイムレコーダーや電子カルテとの連携、パソコンでの入力といった選択肢があるので、それぞれの勤務スタイルに合った方法を選ぶことが可能です。
●4.現場の業務効率化につながる
勤怠管理システムは、単に正確な労働時間を記録するものではありません。給与や割増賃金の計算、休暇申請、シフト調整なども一元化できるため、病院全体の業務効率化につなげられます。
これまでの労働実態をもとにシフトを最適化すれば、人材の再配置によるコスト削減や業務効率化も実現できるでしょう。「看護勤務管理システムの勤務表を取り込む」「複数のフォーマットに対応」といった製品を選ぶことで、既存システムとのスムーズな統合も可能になります。
●5.コンプライアンスを強化できる
導入するシステムによっては、法令や独自のルールに合わせて警告アラートを出すことも可能です。どのようにアラートを出せるのか、以下ではわかりやすい例をまとめました。
・時間外労働の上限規制に近づいているスタッフを一覧表示する
・有給取得日数が5日未満のスタッフを、警告色(赤など)で表示する
・健康確保措置(面接指導や休息など)の必要性が生じたら、そのスタッフを警告色で表示する
2024年から始まった医師の働き方改革により、医療機関には客観的な勤怠管理が求められるようになりました。地域から信用され、安全な医療を提供し続けるためにも、コンプライアンスの強化は欠かせません。
医師の働き方改革については以下の記事でも解説しているので、不安を抱えている医療機関はぜひ参考にしてください。
病院の勤怠管理はなぜ複雑?就業管理システムで解決できる課題とは【働き方改革で何が変わった?】

■【事例つき】勤怠管理システムの導入効果
勤怠管理システムには副次的な効果もあり、就労環境の改善によって現場の負担を減らせる可能性があります。どのような導入効果が期待できるのか、以下では厚生労働省が公表する事例とあわせてご紹介します。
●時間外勤務・残業の抑制
勤怠管理システムで正確な労働時間を記録し、前述のアラート機能などを活用すると、以下のような仕組みで時間外労働・残業を減らせます。
・時間外労働の上限規制に近づいたら(アラートが出たら)、シフトを調整する
・シフトをグラフなどで可視化し、勤務時間の偏りを調整する
・業務効率化で手が空いた人材を再配置し、忙しい現場の休暇を増やす
時間外労働・残業が減ると、多忙な医師やスタッフの負担が減るため、医療の質が上がる効果も期待できるでしょう。以下の事例では、新しい当直体制の整備と勤怠管理システムにより、当直明けの残業時間をピーク時の半分まで減らしています。
参考:厚生労働省 「令和4年度 勤務環境改善に向けた好事例集」

●離職率の減少
休暇数のカウントや申請フローがシステム化されると、適正なペースで休暇を取りやすくなり、有給休暇取得率も高まることが予想されます。また、業務効率化や人材の再配置によって現場の負担が和らぐため、勤怠管理システムには離職率を抑える効果も期待できます。
以下の事例では、看護師の離職率を下げる目的で、ICカードのタッチによって出退勤が記録できるシステムと新しい歩合給制度を導入しました。働けば報われる環境を整備したことで、医師を含む全職員の残業時間が減り、全国平均を超えていた離職率(2021年時点で14.8%)が3.0%まで改善しています。
参考:厚生労働省「令和4年度 勤務環境改善に向けた好事例集」
●タスク・シフトの推進
タスク・シフトとは、医師などに集中していた業務の一部を、他職種(看護師や薬剤師など)に移管して全体の負担を抑えることです。厚生労働省が推奨している施策で、特に人材不足や急な患者対応が生じやすい医療機関では、多職種でお互いの機能を担い合う体制づくりが求められます。
勤怠管理システムがなぜタスク・シフトの推進につながるのか、以下では一例をご紹介します。
手順1:「誰が・どの業務に・どれくらい時間を費やしているか」を見える化する。
手順2:多忙なスタッフが抱える業務のうち、他職種が代行できるものを探す。
手順3:業務効率化などで手が空いたスタッフに、該当の業務を移管する。
厚生労働省の事例集でも、システム導入とタスク・シフトの推進を同時に進めたケースが見られます。以下の事例では、医師1人あたりの時間外労働を月4時間ほど削減すると同時に、薬剤業務や検査業務などのタスク・シフトを実現しました。
参考:厚生労働省 「令和4年度 勤務環境改善に向けた好事例集」
■勤怠管理システムの注意点
勤怠管理システムの効果を高めるには、導入時・運用時に直面しやすいハードルも理解することが必要です。ここでは、導入時に注意したいリスクやデメリットについて解説します。
●導入コストや運用コストがかかる
勤怠管理システムの導入時には、システム自体の購入費やネットワークの構築費、タブレットなどの機材費がかかります。また、システムやネットワークの維持費や管理費、サービスの月額料金など、運用コストも負担しなければなりません。
ICカードの打刻によるシステムを導入した以下の事例では、5年契約で500~600万円のコストが発生しています。
参考:厚生労働省 「令和2年度 医師等医療従事者の勤務環境改善の推進にかかるICT機器等の有効活用に関する調査・研究」
なお、オンプレミス型のシステムは、電子カルテなどを運用している既存のサーバーに導入することも可能です。製品や導入方法によってはサーバー代などを節約できるため、コスト面が不安な場合はベンダーなどに相談をしてみましょう。
●システム障害のリスクがある
勤怠管理システムに限らず、デジタル技術にはシステム障害のリスクが付きまといます。2026年1月には、近畿地方の大病院でシステム障害が発生し、会計が数時間待ちになるなどの弊害が生じました。
システム障害を完全に防ぐことは難しいため、データのバックアップ体制や復旧プロセスは事前の整備が必要です。また、製品によってシステムの安定性が変わる可能性もあるので、ベンダーの信頼性やサポート体制を比較することも欠かせません。
●セキュリティ対策も必要になる
勤怠管理システムのようなデジタル技術では、機器の紛失やサイバー攻撃による「情報漏えい」も懸念点になります。特に電子カルテと連携する場合は、患者の個人情報を守るためのセキュリティ対策が欠かせません。
国内でも病院を狙ったサイバー攻撃は発生しており、規模によっては別の機器(ナースコールなど)が影響を受けることもあります。
■病院向け勤怠管理システムの選び方
ここまでの内容を踏まえて、以下では勤怠管理システムを選ぶポイントについて解説します。
●1.対応できる職種や勤務形態
大病院は当然ですが、中小規模でも病院によっては複数の診療科や職種、多様な勤務形態への対応が必要です。たとえば、「医師と看護師のみ」「オンコールに対応できない」のような製品を選ぶと、別の管理方法やシステムと併用する形になるため、結果として余計なコストや労力がかかるかもしれません。
特に注意したいのは、業界特有の働き方(退勤後の呼び出しや宿直勤務)に対応できるかどうかです。自己研鑽時間も含めて、現時点でどのような労働が発生しているかをきちんと把握し、勤怠管理全体を効率化できるシステムを選びましょう。
●2.現在の環境で稼働できるか
現在の導入環境によって、勤怠管理システムの選択肢や導入コストは変わります。たとえば、自前のサーバーを持たない病院がオンプレミス型のシステムを導入する場合は、サーバーの構築費を確保しなければなりません。コストを抑えて費用対効果を高めたい場合は、以下の点も確認しておきましょう。
・自前のサーバーが必要になるか
・電子カルテネットワークを利用できるか
・複数拠点に対応できるか
システム導入にあたって勤怠管理が大きく変わる場合は、業務フローの見直しも必要です。教育コストがかかるケースもあるので、「新しい業務フローに対応できるか」「現場が使いこなせるか」についても確認してください。
●3.連携できる外部システム
さまざまな業務を効率化・自動化したい場合や、将来的に導入範囲を拡大したい場合は、連携できる外部システムの確認も欠かせません。将来の運用を具体的にイメージしながら、以下の点も確認するようにしてください。
・給与ソフトや看護勤務管理システム、電子カルテなどと連携できるか
・連携できるメーカーが限られていないか
・既存のシステムと統合しやすいか
各種システム連携は、オプションで用意されていることもあります。製品概要に記載されていない場合は、各ベンダーに問い合わせてみましょう。
●4.ベンダーのサポート体制や信頼性
一般企業とは違い、多くの病院にはネットワークやシステムの専門家(情シス部門など)がそれほど在籍していません。そのため、導入から運用までのサポート体制や障害時の対応力、安定稼働の実績についても事前の確認が必要です。
サポート体制については問い合わせ窓口に加え、「デモ製品を使えるか」「運用に慣れるまで伴走してもらえるか」などを確認しましょう。また、以下を意識しながら情報収集を進めると、信頼性の高いベンダーを選びやすくなります。
・同等規模の医療機関における導入実績が多いか
・口コミや評判に問題がないか
・すでに導入した病院から紹介されているか
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■目的や規模に合った勤怠管理システムを選ぼう
労働時間を記録する以外にも、勤怠管理システムにはさまざまな活用方法があります。業務効率化やタスク・シフトを推進し、本記事のようなメリットを最大化するには、目的や規模に合ったシステムを選ぶことが重要です。
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